めっちゃ高い自転車で京都市内をうろうろしたいなあ

2006年08月14日

BLOODY ROMANCE

命をたっぷりと吸い上げた灰色の雲が破壊された城と領民たちの村々を覆い、霧雨が夜明けの地平を濡らしている。

霧丸は馬を駆り、瓦礫と泥濘と化した領地を疾走していた。
太陽の輝きは届かず、途切れそうな意識を焦燥が駆りたてる。

銃声が轟いた後、地下礼拝堂で息を潜めていた領民達は勇気を振り絞って鉄の扉を開けた。
敵に一矢報いるべく、さまざまな得物を手にした彼らが見たものは、憔悴しきって倒れているヘルシングの銃を持つ娘だけであった。

領民の誰もが愛するその娘は薄汚れ、目は落ち窪んで隈が浮き出ていたがその口元にはどこか満足げな微笑があった。

ここで何があったのか誰も知らない。どのような敵と彼女が対峙したのかも判らない。
だが、その微笑みに領民達は安堵の息をもらし、たった一人で戦い抜いて冷え切った彼女の身体を毛布でくるみ、暖かいスープを用意して目覚めを待った。

分厚い雲に覆われてはいるがどうにか迎えた夜明けに霧丸も目覚め、アリエッタの無事の知らせに胸を撫で下ろしたのもつかの間、領主の姿がどこにも見えなかった。

書斎にも。
棺にも。
薔薇園にも。

陽光は分厚い雲に遮られているとはいえ、その苦痛は「聖者の炎」の比ではないはずだ。

最後に思い当たる場所に向って霧丸は馬を走らせた。
森のはずれの石塔は城と村と畑が一望でき、カーマインはそこで安らかに眠る領民達の姿を見守りながら長い孤独の一夜を過ごすのだ。

嘶く馬から飛び降りて、石の階段を駆け上り、頂上の扉を開けると…。

廃墟となった家屋…。
荒れ地となった畑…。
燃え盛る炎の煙で、空は灰色に覆われている。

汚された地上を洗い清めるように降り頻る霧雨の中に佇む彼女は背を向けたまま赫髪を震わせて呟いた。

「ごめんさい…」
ルルドの泉でベルナデッタの慈悲に触れ、もう一度人間を信じてみようと思った。

「…ごめんなさい…」
放たれた弾丸からその身を投げ出して庇おうとした霧丸の無私に触れ、もう一度人間を愛してみようと思った。

だが、結局は内に潜む悪意に抗うことが出来ず、眼下には無残な光景が広がっている。
領民達の愛してくれる村が燃えている。
貴方が愛する領民達の営みが瓦礫の山と化している。

霧丸はそっと歩みより、身を寄せて悲しみにくれるその背に手を触れた。

呪われた身体を燃やす業火は霧丸すら包み込んでいく。

「帰りましょう。そしてまたやりなおせばいい…」

少し振り返った赫髪の奥に打ち抜かれた右目が覗く。
涙を失った不死者の頬を霧雨が濡らし、やがて雫が一筋…悲しみを伝って、ぽとりと落ちた。

凄まじい破壊の中で残されたその石塔は、この世の果てにすらある希望を示すかのように揺ぎ無く聳え立ち、
その頂上で穏やかな生と安らかな死を失った二人は、霧雨が洗い流す絶望の景色を見つめていた。

いつまでも…。いつまでも。

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