めっちゃ高い自転車で京都市内をうろうろしたいなあ

2006年08月18日

BLOODY ROMANCE

開け放たれた窓から迷い込んだ風が、霧丸の煎れてくれた紅茶の香りを浚っていく。
外では祭りの準備もそろそろ終わったようで、子供達の嬌声が洩れ聞こえてくる。
そして澄み渡るような青色を湛えていた空はいつの間にか朱色となって、この世界を金色に染め上げようとしていた。

「だから今日はあの日失われた魂達を慰める鎮魂のお祭りなのです」
霧丸はそう言ってニコリと微笑んだ。
私はもう一度焼け焦げた「我が闘争」の表紙を見つめ、この地へ案内しようとしてくれた写真家の言葉を思い出す。

…俺もそうだったよ。ナチの衛生兵だった叔父貴の言う世迷い事などな…

この地に関わった彼の叔父は狂人扱いされて失意の内に死に、彼自身も闇空に輝く2つの月光の下で不本意に死んだ。
その死を悼みながら、私は現世に帰っても今日の出来事は誰にも話すまいと心に誓った。
だが……。現世に帰れたら?
帰って何があるというのだろう?
家族を失うほど情熱をそそいだ仕事だったが、今はただ燃えかすのような虚しさが残るばかりであった。

霧丸はそんな私の横顔を見て、何か感じるものがあったのか穏やかな口調で言った。
「今日と明日の境目には貴方はご自分の世界へ帰れるでしょう。それまでお祭りを楽しんでください」

その言葉が終わるや否やドアがけたたましくノックされ、霧丸が渋がりながらも微笑んで入室を促すとアデルが部屋に飛び込んできた。
息を切らし三つ編みを揺らせながらアデルは嬉しそうに叫んだ。
「先生!お祭りの準備が終わりました!早く早く!夜になったら先生動けないもの!」
あまりの大声に私は気が遠くなり、書斎の本が数冊書架から滑り落ちて埃を舞い上げる。

「アデル……。お客様がいらしているのだからもう少し行儀良くなさい」
霧丸は呆れ顔で彼女を嗜める。
祖母であるアリエッタの面影を色濃く受け継いだ三つ編みの娘はチロリと舌を出し、ごめんなさいと素直に謝った。
「私は仕事があるので残念ながらお祭りには行けないが、お客様をご案内してくれないか?」

アデルは私の方を向きスカートを両手で掴んでお辞儀をし、挨拶をした。
私も簡単な自己紹介をして、よろしくと言うと彼女はニコリと微笑んで私の手を取った。
「じゃあ先生!お仕事頑張ってください!お客様とお祭りに行ってきます!」
結局霧丸の嗜めはあまり効果がなかったようで、来たときと同様に大声を張り上げて私を引っ張って行く。
私はホルスターに収められた黒い銃と義務が背負わされた彼女の可憐な背中を見つめ、霧丸の苦笑を背に受けながら夕と夜の境目を走っていった。




広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。